医療の質の評価・公表等推進事業 > 公表

平成29年度事業に対する外部委員からの考察

奈良県立医科大学 公衆衛生学講座 教授 今村知明

 

 平成26年7月、全国自治体病院協議会(以下、全自病)の医療の質の評価・公表等推進事業は開始されました。自治体病院には、地域医療を守り支えるための数多くの使命があります。それらを果たすため、自治体病院における医療の質の向上を図ること、地域で自院が担っている役割を「見える化」して自らを振り返り更なる充実を図ること、また同時に広く一般へ情報提供することを目的として本事業は取り組まれています。

 指標の分析結果は参加病院に年4回フィードバックされており、参加病院数は平成26年度115病院、平成27年度161病院、平成28年度174病院、平成29年度では179病院と増加しています。自院を客観視して現状を受け止め、地域により良い医療を提供しようという自治体病院の積極的な姿勢が見て取れます。

 この事業は、平成26年度から3年連続で厚生労働省「医療の質の評価・公表等推進事業」に採択されました。平成29年度は公募に申請しなかったため、国の補助は受けずに全自病の独自事業として継続されています。既存の医療の質の評価指標からも選抜して導入していますが、全自病が設定した指標の定義には既存よりも実際に即したものが多くあるため、今後は国の指標に反映されるように医療政策方面へのアプローチも必要ではないかと考えます。

 

 評価・検討組織は、臨床指標評価検討委員会とその下に作業部会が設けられています(図1)。委員会では、臨床指標の設定、データの評価・公表、当事業における課題の分析、改善策等の検討を行っており、非常に厳しい議論の中で活発に意見が交わされていることは高く評価できます。 また、作業部会の功績は大きく、自治体病院の医療の質をよく表す評価指標が整備・充実されたのも、ここでの難しい検討作業や大変な努力があってこそだと感じます。臨床指標データの集計結果の分析などの実務的な作業もしっかりなされているほか、調査・統計に関する勉強会も積極的に行われ、より適切な指標となるようにとの心意気が感じられます。

 

 評価の指標はプロセス指標とアウトカム指標の両方を含んでおり、平成29年度は一般病院では32指標、精神科病院は23指標です。大変充実した評価指標となっており、前年の平成28年度には一般11指標、精神8指標が新規追加されました。大きな特徴は、精神科病院についても質の評価指標が数多く設定されていることです。一般的に精神科病院の評価は難しいといわれており、これまであまり例がありません。このような評価を実施できることは全自病、自治体病院だから実現できた指標であると考えます。大変独創的な取り組みで、高く評価できます。

 これら各指標を自治体病院の役割から、生活支援、地域貢献、医療連携、診療の質の4つに分類しています(図2)。中でも「地域貢献」の分類は、自治体病院ならではの視点です。

 

 データ入力者の負担軽減にも尽力され、様々な工夫がされています。エクセルを使用した入力ソフトと入力支援マニュアルが用意され、説明会や入力支援サポートも行われるなど支援体制が整っており、指標は入力ソフトに数字を打ち込むだけで自動計算されるので各自が計算する必要はありません。入力支援マニュアルには項目の留意点もまとめられており、入力者が迷わずデータ入力できるよう工夫されています。また、指標の示す内容や意味が自院でも読み解けるよう、指標の定義が明確に説明された参考資料も作成されています。指標の計算式や、分子・分母に代入する数字の項目が図示されており、大変分かりやすい資料になっています。(図3、図4)

 平成28年度からは一部指標でDPCデータのEFファイルが活用できるようになり、こちらも支援ツールが用意されていて入力作業が更に効率化されています。

 

 評価結果は年4回、全自病のホームページに一般公表されています。分かりやすく集計されており、全自病の会員病院の中での自院の立ち位置が一目で分かるよう工夫されています。また、一般の方にも理解しやすいよう指標の説明も添えられています。

 学会での報告や発表も行われており、平成28および29年度には全国自治体病院学会のシンポジウムにおいて病院からの報告が行われ、また平成29年度は同学会で作業部会から一般演題での発表が行われました。同様に平成30年度においても、福島県で開催される第57回全国自治体病院学会でシンポジウムでの病院からの優良事例の報告と、作業部会からの一般演題発表が予定されています。このような情報提供・収集の場は多くのヒントが得られる機会であり、病院の枠を越えた指標の広がりに役立っていることが伺えます。

 また、全自病は昭和61年度より自治体立優良病院を表彰しています。地域医療の確保という自治体病院の使命を果たしつつ、健全な経営を長年継続するには多大なご努力がなされていることと思量します。自治体病院関係者の皆様の取り組みに敬意を表しますとともに、この指標が益々の医療の質の向上と安定した経営の助けとなるようにと期待します。

 

 平成29年度の評価結果からいくつか所感を述べさせていただきます。

 全体を通しては、各年度で対象病院数が異なります。そのため時系列変化の一番の要因は対象病院の変化だと思われますから、まずはその点にご留意ください。

 また、自治体病院は都道府県での中核を担う病院としての責務があり、他の医療機関と連携しながら地域の医療を支えています。ただし、病院の規模や地域の特性などの事情が異なるため、地域から求められる役割も病院ごとに多少の違いが出てきます。その特性の影響により、病院間での比較では指標のばらつきとして表れてくることがあります。その旨、検討委員会委員長からの事業報告にも記載がありますので、低い値が一概に努力不足という意味ではないということも念頭に置いていただけたらと思います。

 「生活支援」からは指導に関する指標を取り上げますと、2017年度の誤嚥性肺炎の摂食指導実施率(一般25)は平均33.0%、糖尿病入院栄養指導実施率(一般32)は平均76.9%、どちらも経時的に増加しています。退院後の患者自身の生活のための指導であり、QOLの向上にもつながります。誤嚥性肺炎では、患者の状態によっては胃瘻造設が選択される場合もありますが、世論の影響もあってか近年胃瘻は減少傾向にあるようです。

 「地域貢献」からは二次医療圏における救急患者に関する指標を取り上げます。地域救急貢献率(一般12)は、二次医療圏での救急患者の受入についての指標で2017年度は平均28.3%と変化なしです。病床規模ごとの分布ではばらつきが見られますが、近隣医療機関での救急受入有無など地域のニーズによる影響も大きいと思われ、地域において自院がどのような役割を担っているのか再確認していただける指標だと思います。受入の多い医療機関におかれましても、今後も継続して地域から受け入れるためには体制の充実が必要などの課題が見えてくるかもしれません。特に100%に近い場合は、病院での破綻が地域の救急医療の破綻につながってしまいます。また、精神科での救急である、緊急措置入院件数【精神科】(精神06)、措置入院件数【精神科】(精神07)については、総合病院の精神科よりも単科病院での受け入れが多い様子が見て取れ、精神科医療の特徴が指標によく表れています。

 「医療連携」は、地域の医療機関との間での患者受入や退院後の連携などに関する指標が複数設定されています。ここでは個別の指標については取り上げませんが、地域における他の医療機関の多寡など、その地域が自院に求めるニーズが指標の値に表れてくることがあります。

 「診療の質」からは、クリニカルパス使用率(患者数)(一般17)、クリニカルパス使用率(患者数)【精神科再掲】(精神16)について取り上げますと、2017年度は一般では平均41.8%、精神では平均19.3%で、どちらも経時的に増加しているとの報告です。一般と比べて精神では半分以下の使用率となっていますが、特に精神科では患者ごとの治療方針が多岐に渡り、対応にも柔軟さが求められる場面が多いため、クリニカルパスの適用は難しいと感じられることも影響しているかと思います。しかし、精神科でのパスの活用は、そういった患者個別の状態という要因を除いた時に、どの患者にも基本の部分において質の高い医療を確保するということにつながると考えます。今後も取り組みを続けていただきたいと思います。

 

 平成30年度は5年目となる本事業ですが、精神科における指標に代表される多くの独自指標の設定、記入負担を減らす調査側の努力、サポート体制やフィードバックの充実、評価委員会ではよく指標を理解された上で検討が行われていること、そして自治体病院の方々が評価指標への継続参加や事例共有など意欲的に取り組まれていることなどから考えて、よりよい評価指標へと更なる発展が期待できます。自治体病院の医療の質の向上と地域の健康のため、今後も指標を役立てていただければ幸いです。

(図1)


(図2)


(図3) 【数式の定義例】 指標の定義[version4.1]より


(図4)【留意点の例】入力支援資料[version4.1]より