3.医師の働き方改革
いよいよ本年4月から罰則付き医師の時間外労働時間の上限規制が始まりました。岩手県では特例労務水準は5病院(大学病院を含む)が申請、認定されました。単純に時間外労働時間を減少させようとすると、医師にとって大事な経験症例の減少、研修時間の減少、診療制限によるアクセスの悪化、経営の悪化を招来し、地域医療が破綻します。地域医療崩壊は医療提供体制が破綻することでありますが、提供する医療の質も大事な要素で、低下しないよう担保されなければなりません。体力知力の旺盛な若い世代に徹底して習得した価値ある経験・学習は、その後の医師としての成長を促す大きな要素です。研修医は労働者と定義されていますが、学習者としての側面も重要で、成長に必要な研鑽、医師としての経験を積むことをけっして妨げるような働き方改革であってはならず、逆にあきらかな労働時間が研鑽と処理されてもいけないと思います。職業を表す英単語はOccupation、Trade、Business、Employment、Job、Vocation、Calling、Professionと種々ありますが、頭脳を用いる専門的職業である神学・法学・医学は古来Professionと称されてきました。Professionとしての要件は、以下の4点が必要と考えられてきました。
① Specialized Techniques:優秀な人材が、努力と訓練で培った知識と専門的技術。科学的根拠と倫理性に支えられた技術
② A Special feeling o fresponsibility:奉仕の精神、無私の精神、利他の心。ノブレス・オブリージュ、忘己利他
③ Non Profit:営利追及の排除
④ Association:医師会、医局への加入です
今、プロフェッショナルオートノミーについて考えてみたいと思います。プロフェッショナルオートノミーはとくに医療人には必要と言われてきました。その内容は専門職集団は職業的良心に基づいて自分たちを律するという条件で、職業上の自由を与えられるという社会契約です。さらに政府や行政等の外部による規制を受けない代わりに、診療に関しては自ら自己規律のシステムを構築し、それに従って行動していくということです。世界医師会(WMA)は医師のプロフェッショナル・オートノミーと臨床上の独立性の根本的性格を認識し以下のとおり述べています。プロフェッショナル・オートノミーと臨床上の独立性は、すべての患者と人々に対して質の高い医療を提供するための必須の要素である。プロフェッショナル・オートノミーと独立性は、質の高い医療の提供に不可欠であり、したがって患者と社会に利益をもたらすものである。プロフェッショナル・オートノミーと臨床上の独立性は医師のプロフェッショナリズムの中核的要素であると認識する。今回の「医師の働き方改革」は勤務医を労働者と認定し、労働基準法の適用下にあるとするものですが、医師のプロフェッショナリズム、プロフェッショナル・オートノミーが壊れてしまう改革では将来に向けて禍根を残します。医師は単なるJob Workerであってはならず、プロフェッションです。医師は診療に際して、誇りと矜持を持ち続けていきたいと思います。
今後目指していく医療提供の姿として、労働時間管理の適正化が必要で、その際、宿日直許可基準における夜間に従事する業務の例示等の現代化、医師の研鑽の労働時間の取扱いについての考え方等は示されてきました。医師の労働時間短縮のために、医療機関のマネジメント改革(意識改革、チーム医療の推進、ICT等による効率化)、地域医療提供体制における機能分化・連携や医師偏在対策の推進は必要で、地域医療を守るためにも医師が働きやすい勤務環境の整備が重要であると考えます。働き方改革は医師の意識改革の契機であり、医師の健康確保と地域医療体制の維持が要で、職員・患者満足度をあげるためにも働きやすい働きがいのある職場環境と質の高い医療提供体制を築いて行きたいです。同時に時間外労働時間の短縮とともに、生産性が向上する病院マネジメントが必要です。多様な働き方に対して、寛容になる文化の醸成が医療界全体で進み、バーンアウトすることなく性別、年齢に関わらず持続可能な勤務体制となり、医師も健康で豊かな人生を送れるようになればと思います。
|