会長挨拶

令和4年度 会長挨拶

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「自治体病院を巡る課題ーコロナ禍のなかで


公益社団法人 全国自治体病院協議会

会長 小熊  豊

 

 1.はじめに

 令和4年度の当会役員が決まり、会長、副会長、監事は全員が留任、常務理事、理事はご勇退さ れた先生方と交代して新たに数名の先生が役員としてご就任されました(全自病協雑誌第61巻7号をご参照下さい)。今までお世話に なりました諸先生には、この場を借りて厚くお礼申し上げます。また、新たにご就任いただきました先生には、お力を遺憾なく発揮し、 ご活躍いただきますようお願い致します。
 我々自治体病院には、以前よりは改善されたとは言え定年退職制度があり、病院長、事業管理者等就任後に数年で引退される方が毎年おられます。激動の今の医療情勢の中で、経験・知識ともに豊富な指導者が勇退されることは、組織としての運営を考えると一面辛いものがありますが、次世代を担う優れた先生の登用・台頭がなければ、組織は新たな指針・方向性を見出せず、弾力性、発展性を失い硬直化する恐れも生じます。 当会でも役員を選任する際には、個々の先生のご経歴、就業環境に加え、年齢が幾歳で何年役員をお務めいただけるか、という点も考えざるを得ません。年々業務は増える一方で、様々な問題が積み重なる状況にあり、各地の諸先生、 当会役員の先生には益々ご負担を お掛け致しますが、宜しくお願い 致します。

2.最近の医療政策の決定 のあり方、診療報酬制度 決定の問題点について

 新型コロナウイルス感染症の影 響によって、医療を巡る動きは一方では非常に速くダイナミックに動き、まさに生き馬の目を抜くよ うな感がありますが、他方では 遅々として進まない状況に包まれています。医療費、社会保障費が 年々増大し、我が国の財政状況の悪化が愈々深刻化し、少子高齢化、 人口減、疾病構造の変化、地域の縮小・衰退を迎えるこれからの時代にあって、我が国の医療・介護はどうあるべきか、どうすべきか、 国民皆保険制度、5疾病6事業となる第8次医療計画、医療提供体制、働き方改革、地域医療構想、公民、病診の分担・連携問題、かかりつけ医制度を含む診療報酬体系等、様々な重要案件は残念ながら簡単には進展、決着しません。
 その上最近では財務省、内閣府等の検討会などで、経済の専門家達が医療関係者・専門家の意見も聞かずに、財政的観点のみから問題ある医療政策を提言し、それが閣議決定に繋がり、国策として決められた上で、厚労省や我々医療関係者に実施を強要する乱暴な、 ゆゆしき事態がみられています。 厚労省の委員会等で問題点や改善点を指摘しても、あたかも国策なのでと言わんばかりに取り合ってもらえないことも経験します。こ うした政策決定のあり方は絶対に許せるものではなく、国民・医療者の思い、実態と乖離した乱暴なやり方で、将来に必ず禍根を残すと私は考えています。財政面も重要ですが、医療のあり様を十分に検討せずに政策とすることに厳重に抗議するとともに、最優先で改めるべきと思います。
 一方、今年の診療報酬改定では、社保審や中医協等で十分に議論が尽くされる前に審議時間が終了し、厚労省からの最終改定内容の発表で、初めて細かな設定事項や設定条件、設定数値や対応策などが示されたところが見受けられました。非常に重要なところにこういった点があり、協議をスルーされた形の社保審や中医協は、何のための検討会だったのかと批判されても当然なように思いますし、厚労省が何故このようなやり方になったのか十分検討し、反省し、次回の医療・介護同時改定にあたっては、十分に細部まできちんと協議・検討を終えて、誰もが理解しうる過程を踏んで、診療報酬・介護報酬改定にすべきと考え ます。医療、介護という国民の健康、生命、生活に直結する報酬制度決定において、厚労省は、今回のような失態を二度と行うことの 無いよう進めて欲しいと強く願います。

3.新型コロナウイルス感染症について

 我が国の医療機関は約8割が民間医療機関からなり、公立、公的医療機関を含めても病床数に比して医師、看護師等の配置が薄い小規模な医療機関が多く、大規模拠点化、高度専門性の確保の面でも、 機能分担・連携のあり方の面でも整備が遅れています。国は地域医療構想調整会議で協議を進めると ともに、病床機能報告制度や診療報酬制度、基金等を活用して、病床機能の適正化、過剰病床の転換、 削減、病院の再編と機能分担・連携体制を強化し、外来についても外来機能報告制度、かかりつけ医機能を強化して役割分担を進め、 効率的な地域包括ケア、地域医療構想体制を構築する予定でした。 しかしなかなか進展しないところへ、新型コロナのパンデミックに襲われました。新型コロナウイルス感染症では、平時と感染拡大時では全く医療状況が異なり、我が国の現状、あるいは将来の医療需要を予見して進めてきた効率性重視の医療体制では、感染拡大時には重大な欠陥、対応不備が生じることが明らかになりました。中~高度専門医療に習熟した医師、看護師、医療従事者が足りず、施設・ 設備も小規模散在型で不足、リアルタイム方式の情報把握・対処システムや保健行政体制の未整備、 急性期から療養期までの切れ目のない連携体制の確保や、介護施設、 宿泊療養施設、自宅、学校等への医療機関の支援・介入不足、治療 薬・ワクチン・必要医薬物品の国内生産、流通体制の不備など、実に多くの課題が明らかにされまし た。国は政策的にも財政的にも 様々な支援策を講じ、対応に務めてきましたが、一朝一夕に未知の感染症への対策が成り立つわけはなく、今後着実に適切な体制が構築されることが望まれているとこ ろです。  
 先日岸田首相は、政府の有識者会議からの報告(座長永井良三自治医科大学長)を踏まえて、司令塔機能を強化し迅速な感染対応を 行うために内閣感染症危機管理庁を新設し、日本版疾病対策センター(CDC)を創設する考えを表明され、感染症法の改正、病床確保の法的整備などを進める方針を示されました。それを受けて新型コロナウイルス感染症対策本部からは、次の感染症危機に備えるための広範な対応方針が示されました。我々は、自治体病院として積極的に感染症対応に当たる所存であり、様々な課題が指針・体制整備により一刻も早く克服される ことを期待しているところです。

4.地域医療構想とかかり つけ医機能の充実について

 新型コロナウイルス感染症のところでも触れましたが、非都市部・ 地方では少子高齢化、人口減少が続き、大都市部や他圏域との較差が拡大する一方で、近未来の医療ニーズに応じた適切な医療提供体制の再構築が不可避と考えられます。そのため入院医療では、圏域ごとの病床機能の整理と余剰病床の削減、稼働率の向上と入院期間の短縮、病院間の再編統合、機能分担と連携体制の確立、医療人材の確保と医療資源の充実などが検討されてきました。外来では、かかりつけ医機能、在宅医療の充実と大病院コンビニ受診の解消、機能分担の推進、救急医療体制の整備等が重要課題として挙げられ、 公民が一体となって実現に向かうべく協議を進めていく方針でし た。しかし残念ながら、医師等の不足、偏在が解消されず、医師の 働き方改革、地域医療構想、地域包括ケアシステム、かかりつけ医機能の充実が充分に検討、進展さ れないうちに、新型コロナウイルス感染症に襲われ、平時と感染拡大時での対処(機動的対応)問題 が加わって、より一層複雑、深刻 なものになってしまいました。前述したように、感染拡大時への備えは平時から着実に行わなければなりませんが、あまりに過剰過ぎては医療上も財政上も無駄となることから、圏域毎に感染拡大時に移行可能な適切な医療体制を構築し、機能的な役割分担・連携体制を整備することが求められます。 また、診療所、小規模病院がかかりつけ医機能を着実に発揮し、施設内診療のみならず在宅診療にも しっかり対応し、救急時のファー ストコンタクトもチーム体制を組むなどして行い、必要時に中核的総合病院、専門病院に紹介する体制の構築が、今後避けて通れないものと私は考えています。もちろん住民の啓発などもしっかり進め なければなりません。当然初期対応に当たるこれらの医師達の負担は増大しますが、今までは患者、 地域と密着して責務を果たすべきこれらの医師達の役割が発揮されていなかっただけであって、今後は大きく変貌させることが必要と 思っています。そのために様々な制度上、財政上の支援策、改善・ 評価策、医療情報の活用改善策等 が必要と考えます。地域によっては診療所等も減少し、病院規模も 縮小している地域がありますが、 そういった地域こそ如何に医療資源を有効に、無理なく用いるか、真剣な協議が必要になります。いずれにしろ、地域医療構想調整会議などでかかりつけ医機能、救急医療体制のあり方から見た医療の再構築が、今後は不可欠になるのではないかと思っています。

5.医師の働き方改革について

 我が国の医療は、病院勤務医の自己犠牲的長時間労働によって長年支えられてきたと言っても過言ではないと思います。過去、病院 勤務医は医療者としての責務のみを考え、労働者としての立場を殆 ど考えてきませんでしたが、管理者を除く病院勤務医は全て労働者とされ、医師の労働時間の適切な管理が義務付けられてから、判断、 対応が少しずつ様変わりしてきました。国は医師の時間外労働をA 水準(年960時間以内)、B水準、 連携B水準(年1,860時間以内)、 C1水準、C2水準(同左、技能水準向上のため)に分類し、2035 年にはB水準を解消し、C水準も縮減するとしています。しかし、 A水準であっても労働時間の厳密な法的基準からは逸脱しており、 医療という特殊事情に配慮した結果、制定されたものであります。 医師の宿日直自体は医療法で義務付けられながら、その業務は患者急変時への万一の備えであり、院内巡視、電話対応、消灯業務などに限定され、労働基準監督署からは宿日直中の患者診療を厳しく制限され、病院の過半数は宿日直基準を満たせない状況にありまし た。また、様々な診療業務、医師の配置基準との兼ね合いから、時間外勤務を繰り返さねばならない状態が続いていましたが、最近は 徐々に医師の意識改革、行動変容 が進み、病院も労働時間を適正に 把握し、業務のあり方を改善するなどして、医師の時間外労働が縮小し、A水準に属する医師が増える傾向にあります。比較的医師が多く財政力のある中~大病院では、宿日直中に患者の診察に当たった時間を時間外として積算し たり、勤務時間の変更、変形労働制などの対応、救急体制・院内体制の整備を進めることが可能と考えられますが、医師不足や財政状況の逼迫している病院では、残念ながらこうした対応を取ることが 難しく、苦しい状況から脱しきれないところも見られています。更に最近では、大学等から宿日直許可基準を取得していない病院に医師を診療応援として派遣すると、 時間外労働にカウントされてしま うために、派遣中止を考えざるを得ないという話なども聞こえており、働き方改革を巡っては地域医療の存続問題、人的問題、財政的問題にも直結するだけに、まだまだ予断を許さぬ状況が続いています。日本医師会を核とした医療機関勤務環境評価センターがB、C 水準の認可に関与することになり、厚労省内にも相談部署が設けられたり、各都道府県にも支援セ ンターが設置されて助言等にあたるなど、愈々働き方改革が始まろうとしています。しかし先日の厚労省での調査では、各大学、病院の対応は十分と言えるレベルに達していないことも示されました。 個々の医師、病院の努力のみでは解決が進まぬ問題もあり、厚労省 本省、労基署、都道府県、市町村や、住民、大学、医療関係者等との間で、圏域ごとに対応策を具体的に協議していくことが必要ではないかと思われます。施設間、地域間での対応差が解消され、全国 一律に最大限の進展が進むことを 願っています。

6.医師確保・偏在対策について

 医師不足、偏在を巡っては、各地の人口動態と疾病構造、罹患率、患者の流出入状況等によって医療の需要量を算出し、他方では年齢、性別指標を加味した医師数、 就労時間等から供給量を算出、こ れらを用いた需給関係によって医師の偏在指標を算出する方法が厚労省から提示されました。厚労省は、医師の偏在指標によって全国 を医師多数区域から少数区域に分類し、医師少数区域にあっては確保すべき目標医師数、具体的な確保策を医療計画のなかに立案、実 行すべきことを都道府県に通知しています。医師の養成に関しては、 医師養成数を臨時的に増員し、地域枠を都道府県と大学との間で設定することを認めてきました。その結果、年間9300名ほどの医師が養成され、地域枠医師として地域に就労する医師、中でも地元の中~大規模病院に勤務する医師が増 加傾向を見せてきました(残念ながら200床未満の小規模病院では 医師数は殆ど増えていない)。一方、日本専門医機構では、診療科毎、地域毎の医師の需給状況に基 づき専攻医のシーリングを設定し、医師充足地域から不足地域への専攻医の配置、応援体制を組むことを進めてきています。各専門 診療科学会では、どの診療科も医師が充足されているところはない と報告し、医療の進歩、専門性の進展などから医師需要量が一層増大しており、医師間の専門性の違い、専門医師の配置、診療勤務状況等から供給量を細かく算定し直すなど、緻密な算出方法の再設定が必要と要求しています。こうし た必要量と供給量の正確な把握が 全ての基本となることから、我々自治体病院としてもより精緻な算出法と確保策の徹底を望んでお り、今は一部の医師に限定されている地方勤務を全ての医師に義務化する体制構築が必要と訴えてきています。また、総合診療医がかかりつけ医機能の中心としてこれ からの医療界で果たす役割は大きく、その養成増が期待されていますが、残念ながら年間200名前後の数に留まっております。現在我々は日本地域医療学会を他の病院団体(地域医療を守る病院協議 会、通称六病協、国診協、全自病協、日慢協、地ケア病棟協会、全厚連、公精協)と共に立上げ、地域総合診療専門医の育成に向けて 専門研修プログラムを開始するところです。他診療科とのダブル ボード、セカンドキャリアとしての専門医にも配慮しており、国診協や我々全自病協のホームページ をご覧いただき、専門医研修、研修施設認定等にお申込みいただきたいと考えています。将来の医療ニーズの変化、減少から、医師、 専門医の養成が削減されようとしており、かかりつけ医機能を発揮し、幅広く総合診断能力を有し、 地域社会との共生に貢献する総合診療医の持つ意義は大きくなる一方と考えています。地域医療を担う医師の確保を目指す知事の会等でも、拙速に医師養成数を削減することへの警鐘や、地域枠の医師の確保を継続することを要請しています。出生数が80万人前後まで低下する一方、医療介護従事者が就労者の20%前後まで近い将来必要と言われており、医師の確保も 益々難しくなると予想されること から、我々も前述のように医師の必要量、需給量の精緻な算出や、 総合診療専門医の養成、配置が不可欠と考えているところです。

7.医療DX(デジタルト ランスフォーメーショ ン)について

 経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)では、持続可能な社会保障制度として全世代型社会保障体制を構築し、短期的・中長期的改革事項を整理、 工程化しようとしています。そ して医療DX推進本部(仮称)を 設置し、医療DXの活用、促進を飛躍的に高めるよう進めようと しています。マイナンバーカー ドの利用によるPHR(Personal Health Record)の管理、活用や、 HPKI(Healthcare Public Key Infrastructure)を使用した電子処方箋の開始、更には保険証の廃止などに加え、HL7 FHIRとい う共通の医療情報の標準規格システムを用いて、診療に係る様々な情報をAIで利用可能にしようと進めています。個々のICT機器を共通の規格に統一することは難 しく、代わりにコンピューターか ら出入りする診療情報を共通規格で繋ごうという考え方のようで、 大きく実用化に向けて進んでいる と聞いています。サイバー攻撃にも耐えられるようシステムの接続 VPN機器も脆弱性を克服し、全国数か所に拠点施設を設置して実用化しようとしているようです。 詳細は私ではご説明できませんので、専門の知識ある方にお聞きするか、東京大学医療情報学分野教授 大江 和彦先生が中心となられて進めている厚労省医療情報データベースの運営等に関する検 討会などをご参照ください。今後 急速にこの方面が進展すると思われますので、ご注目いただければと考えます。当協議会では、6月17日の自治体病院管理者研修会で こうした問題を取り上げ、好評のうちに終了しております。講演会 資料などご希望であれば、事務局までお申し込み下さい。

8.終わりに

 地域医療の維持、充実に向けては、実に多くの問題が山積しています。日本が人口減、少子高齢化、 就労人口の減、地域の縮小を迎え るこれからの時代にあって、医療はどうあるべきか、どうすべきか、 我々は真剣に考え、適切な対応を 進めていかなければならないと考えます。総務省からは持続可能な地域医療提供体制を確保するために、公立病院経営強化ガイドライ ン(GL)が策定され、公立病院の機能分化と連携、中核的基幹病院への急性期機能の集約と、医師・看護師等の確保、その他の病院は回復期、初期救急を担い、両者間での連携強化、人材派遣の実施が求められています。最近ある民間系病院団体から、回復期、初期救 急は民間病院が担ってきているのに、公立病院に担うよう総務省が推奨することは納得いかないと反論が挙がったように聞いていますが、病床機能報告では回復期は不足しており、GLは民間医療機関への圧迫、侵襲を意図したものではなく、あくまでも公立病院の役割の明確化、連携の必要性を述べたものであると考えます。持続可能な地域医療提供体制をどう構築すべきかについて、地域医療構想調整会議などで公民一体となって協議を行うべきではないかと私自身は考えています。現在このガイドラインを巡っては、7か所の当協議会ブロック会議で協議中であ り、各地の意見がまとまりました らその意見を公表したいと考えて おります。