医師確保対策

1.要望活動等の状況

自治体病院における医師不足は、自治体病院の使命である地域医療の確保に極めて大きな影響を及ぼしていることから、自治体病院・診療所(以下「自治体病院等」という)に勤務を希望する医師に、自治体病院等の斡旋及び情報提供を行うことを目的として、平成17年4月に全国自治体病院協議会内に設置された、「自治体病院・診療所医師求人求職支援センター」に対し支援を行った。

また、全国自治体病院協議会と全国自治体病院経営都市議会協議会の自治体病院関係2団体とともに、医師不足・偏在を是正すべく、地域の病院が地域ごと、分野(診療科)ごとに適正な医療提供体制を確保できるよう、平成17年6月に、総務大臣、厚生労働大臣、文部科学大臣に対して、その緊急対策の実現方を要請した。

平成18年7月7日には、医師確保に関し特に関係団体共通の課題を具体的に掲げ、自治体病院議員連盟、地方六団体及び自治体病院関係団体が一同に会し、その実現に向けて検討の上、総務省、厚生労働省及び、文部科学省に対し「医師確保に関する要望書」を提出し、以下の要望事項の実現方を要請した。

  1. 医学部入学定員のうち推薦枠(地域枠)の定員を、各都道府県の実情に応じ引き上げが可能となるよう、地域における協議の自主性を重んじること。
  2. へき地や離島など医師不足地域における医師を確保する観点から、自治医科大学の入学及び収容定員を10%増員すること。
    また、医師不足地域の大学医学部の入学定員の増員により医師の確保を図ること。
  3. 病院・診療所の管理者となる要件にへき地医療や周産期医療等への従事経験を付加することや、女性医師の就業環境整備を進めるなど、地域における医師確保に実効性のある対策をとりまとめ、推進すること。こうした取組を進めるため、国において、恒常的に地域や診療科における医師の需給を客観的に評価し、対策を検討する仕組みを構築すること。
  4. 医師が不足している小児科、産科、麻酔科等の診療報酬の設定にあたっては、地方や日本病院団体協議会の意見を尊重するとともに、引き続き検討を進めること。
  5. 診療科における訴訟率に大きな差があり、それが医師偏在を誘引している面もあることから、特に訴訟率の高い診療科については、早急に無過失補償制度など有効な施策の整備を進めること。

総務省、厚生労働省及び文部科学省による地域医療に関する関係省庁連絡会議は、平成18年8月31日に「新医師確保総合対策」を策定した。同日、総務大臣、財務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣が以下のことについて合意した。

  1. 医師不足県における医師養成数の暫定的な調整の容認
  2. 自治医科大学における暫定的な定員の調整の容認

また、平成19年5月31日に政府・与党において取りまとめられた「緊急医師確保対策について」及び、それを受け、平成19年8月30日に地域医療に関する関係省庁連絡会議において「緊急医師確保対策」として以下のことが取りまとめられた。

  1. 医師不足地域に対する国レベルの緊急臨時的医師派遣システムの構築
  2. 病院勤務医の過重労働を解消するための勤務環境の整備等
  3. 女性医師等の働きやすい職場環境の整備
  4. 研修医の都市への集中の是正のための臨床研修病院の定員の見直し等
  5. 医療リスクに対する支援体制の整備
  6. 医師不足地域や診療科で勤務する医師の養成の推進

政府は今日の医師不足の深刻化を認識し、平成20年6月27日に閣議決定した「経済財政改革の基本方針2008」を踏まえ、これまでの医学部の定員削減方針を定めた平成9年の閣議決定を見直し、平成21年度の医師養成課程の入学定員の増員を「早急に過去最大程度まで増員」することを決定した。
当協議会はこれまで平成9年の閣議決定の抜本的見直しを主張してきただけに、今回の対応を高く評価した。(平成20年6月19日 医学部の定員削減の見直しについて(談話))

平成22年に厚生労働省では医師確保対策を一層効果的に推進していくための基礎資料として「病院等における必要医師数実態調査」が実施され、その結果、医師不足の実態(地域偏在、診療科偏在)が明らかにされ、当協議会では、地域医療対策協議会を活用し、医師不足地域に配慮した制度的な措置を講じるなど、さらなる実効性を高めるような仕組みを構築するよう継続して要望している。
そして、この実態調査の結果を踏まえ、国では平成23年度より地域医療支援センターを設置して、医師の地域偏在解消等に取り組むこととしているが、当協議会ではその設置への支援措置等を要望している。

なお、医師確保対策に関する要望項目の実現方については、例年5月に開催している「定時総会」及び11月に開催している「自治体病院全国大会」終了後において、国等、関係機関に対して積極的に要望活動を行っている。

2.自治体病院・診療所医師求人求職支援センター

公益社団法人全国自治体病院協議会(以下、全自病)では、昭和55年度から全国離島振興協議会、全国山村振興連盟、全国過疎地域自立促進連盟の協力のもと、全自病内に「自治体病院・診療所勤務医師等職員センター」を設置し、医療に恵まれない地域等への医師斡旋事業を実施してきた。しかしながら、地域における医師の不足・偏在の深刻化により地域医療の維持・継続に困難をきたしている現況に鑑み、従来の「自治体病院・診療所勤務医師等職員センター」を拡充・発展させることとし、公益社団法人全国国民健康保険診療施設協議会(以下、国診協)と共同により平成17年4月1日「自治体病院・診療所医師求人求職支援センター(以下、支援センター)を設立した。

支援センターの医師斡旋を対象とする医療機関は、全自病並びに国診協の会員等とし、対象とする医師は自治体病院等に勤務を希望する医師である。支援センターでは、医師を募集する会員施設に対して求人票の登録を随時募集しているとともに自治体病院等に勤務を希望する医師に自治体病院等への斡旋及び情報提供を行っている。

なお、支援センターは設立当初より無料職業紹介所として医師の無料斡旋を行ってきたが、本事業をより長期的かつ安定的に継続させるため受益者負担の観点にたち、平成23年4月から有料職業紹介所に転換し、支援センターの紹介により成立した場合は一定の紹介手数料を申し受ける事とした。

このほか、初期臨床研修を修めた医師が後期臨床研修先を検討するための一助として、これを実施している病院を支援センターのホームページに掲載し、自治体病院への斡旋及び情報提供も行っている。

平成17年度から実施している医師の斡旋事業については平成29年度末で376人の斡旋成立を数えている。斡旋した医師の性別、年齢等の内訳は、別表「医師斡旋状況(1)」のとおりである。この中で、過疎、山村及び離島に指定された地域への斡旋状況は別表「医師斡旋状況(2)」のとおりである。

3.医師臨床研修指導医講習会事業の支援

医師臨床研修制度においては、従来の大規模病院のみならず、中小病院、診療所等が研修施設となって全人的医療を担う医師の養成にあたることとなっている。

このため、公益社団法人全国自治体病院協議会及び公益社団法人全国国民健康保険診療施設協議会では、研修医の受け入れにつき万全の体勢を整えることを目的として、研修医の指導を担当する医師の養成を行っている。 

平成15年度から開催している医師臨床研修指導医講習会は平成29年度までに144回を数え、講習会修了者も6,198名となり、全国で新任医師の指導に当たっている。 

平成29年度は7回開催し、284名の医師が修了している。 

平成17年~令和元年度 医師斡旋状況(1)

総数17年度18年度19年度20年度21年度22年度23年度24年度25年度26年度27年度28年度29年度30年度R1

9 8 33 39 45 41 40 48 40 30 16 15 12 23 9 408
斡旋先 (病院・診療所別)                                
病院 6 6 26 34 39 32 35 31 34 19 13 11 8 16 5 315
診療所 3 2 7 5 6 9 5 16 5 9 3 4 4 7 4 89
その他 1 1 2 4
(地方別)                                
北海道
4
1
6
10
17
13
15
3
3
3
4
83
東北
1
2
4
6
3
6
6
4
2
1
1
4
1
42
関東
1
1
16
16
18
12
7
11
15
6
7
2
2
1
116
北陸・信越
3
2
8
3
5
5
4
5
1
3
4
2
45
近畿・東海
5
2
7
5
9
6
6
5
2
2
2
5
60
中国・四国
1
3
2
3
7
3
1
1
1
2
3
28
九州
1
3
4
6
4
3
3
2
1
1
2
2
1
34
(性別)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
           
 
9
6
30
36
38
35
37
45
37
26
16
14
12
23
9
373
2
3
3
7
6
3
3
3
4
1
35
(年齢別)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
           
 
20代
2
1

3
30代
1
3
8
12
17
13
10
11
6
3
2
1
1
89
40代 6 3 9 13 15 17 13 14 9 14 6 3 7 1 131
50代 2 1 11 8 10 7 11 13 12 6 3 2 5 4 100
60代 1 4 3 2 4 4 7 12 6 4 8 10 2 71
70代 1 1 1 1 3 1 1 1 1 1 13
80代 1 1

医師斡旋状況(2)(過疎・山村・離島に指定された地域の斡旋数)

年 度過疎山村離島
(1)
左のうち差引実人数
過疎 ・ 山 村過疎・離島
両指定(2)両指定(3)(1)-(2)-(3)
17年度 3 1 1 5 1 4
18年度 3 1 4 4
19年度 7 4 1 12 3 9
20年度 11 6 17 5 12
21年度 10 6 1 17 6 1 10
22年度 21 6 2 29 4 2 23
23年度 18 8 2 28 5 2 21
24年度 21 16 3 40 14 3 23
25年度 15 8 1 24 7 1 16
26年度 17 6 1 24 6 1 17
27年度 6 3 9 3 6
28年度 5 3 1 9 2 1 6
29年度 7 4 11 4 7
30年度 17 3 1 21 3 1 17
R1年度 5 2 7 2 5
166 76 15 257 65 12 180